REPORT 

〈分析レポート〉

観光エリア別構造分析レポート 都道府県ver.:北海道版

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北海道観光「好調」の内側
成長の重心は、すでに移動している

北海道観光は「好調」に見える。

延べ宿泊者数は前年から約500万人泊増え、観光入込客数も4,964万人と前年度を上回った。消費額も伸びている。数字だけを追えば、市場は順調そのものに映る。

しかし、その伸びの中身を分解すると、見える景色は変わる。

外国人宿泊は前年比44.6%増。国内宿泊は5.6%増。同じ「増加」でも、成長速度に8倍の開きがある。市場は全体として拡大しているが、その拡大を支えるエンジンの構成は、1年で大きく変わった。北海道観光は「回復した」のではない。成長の重心が、静かに、しかし急速に移動している。

本レポートでは、観光庁「宿泊旅行統計調査」、北海道経済部観光局「北海道観光入込客数調査報告書」、各市の観光統計等をもとに、北海道観光市場の構造変化を5つの章から読み解く。


第1章 「全体が伸びている」の中身を分解する

北海道観光:宿泊者数と入込客数の伸び率比較
延べ宿泊者数と観光入込客数の伸び率比較(2023→2024年)
宿泊者数は12.6%伸びたが、入込客数の伸びは3.9%にとどまる
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」令和5年・年間値/令和6年・年間値確定値、
北海道経済部観光局「北海道観光入込客数調査報告書」令和5年度/令和6年度

2024年、北海道の延べ宿泊者数は4,462.9万人泊。前年の3,963.5万人泊から約499万人泊の増加となった(出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」令和5年・年間値、2024年公表/同 令和6年・年間値確定値、2025年公表)。伸び率は12.6%。量的には力強い拡大と言える。

観光入込客数も増えている。2024年度は4,964万人。前年度の約4,777万人から3.9%の増加(出典:北海道経済部観光局「北海道観光入込客数調査報告書」令和5年度、2024年公表/同 令和6年度、2025年公表)。

宿泊も増え、人も増えた。だが、両者の伸び方は対称ではない。延べ宿泊者数が12.6%伸びているのに対し、入込客数の伸びは3.9%にとどまる。この差は、1回あたりの滞在が厚くなっていること——宿泊を伴う旅行の比率が上がり、あるいは泊数そのものが増えていることを示唆する。

観光消費額もこの傾向と整合する。2023年度の北海道の総観光消費額は1兆2,409億円。経済波及効果の生産誘発額は1兆5,944億円(出典:北海道観光機構「令和5年度道内観光産業による経済波及効果」暫定値、2024年。なお、令和6年度の確定値では総観光消費額1兆5,033億円、生産誘発額1兆9,588億円と大幅に伸びている)。

北海道観光は、来訪者が増えている以上のペースで、宿泊と消費が膨らんでいる。量的に見れば「好調」だが、伸び方の非対称性の中に、市場の構造変化が潜んでいる。


第2章 成長速度の非対称——外国人44.6%増、国内5.6%増

北海道観光:日本人・外国人 延べ宿泊者数の構成変化
日本人・外国人 延べ宿泊者数の構成変化(北海道)
増加分499万人泊のうち、外国人が318万人泊(64%)を占める
外国人構成比:18.0% → 23.1%(+5.1pt)
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」令和5年・年間値/令和6年・年間値確定値より算出
※日本人延べ宿泊者数は全体から外国人を差し引いた概算値

市場全体が伸びていることは確かだ。しかし、その増加分を「誰が」もたらしているのかを見ると、構図は一変する。

2024年の外国人延べ宿泊者数は1,031.2万人泊。前年の713.2万人泊から318万人泊の増加で、伸び率は44.6%。一方、日本人延べ宿泊者数は約3,431.7万人泊。前年の約3,250.3万人泊から約181万人泊の増加で、伸び率は5.6%(出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」令和5年・年間値、2024年公表/同 令和6年・年間値確定値、2025年公表より算出)。

どちらも増えている。しかし、全体の増加約499万人泊のうち、外国人が318万人泊、国内が181万人泊。増加分の約64%を外国人が占めている。

外国人の構成比も急速に上昇している。2023年の18.0%から、2024年は23.1%へ。わずか1年で5ポイント上がった。国内宿泊が8割弱を占める「日本人中心市場」であることに変わりはないが、成長の重心は明らかにインバウンドに傾いている。

これは「外国人が増えている」という単純な話ではない。問題の本質は、国内需要は伸びてはいるが、市場全体の成長速度についていけていないということ。国内5.6%に対して外国人44.6%。この非対称が1年で5ポイントの構成比変動を生んでいる。このペースが続けば、市場の性格そのものが変わる。

道内の地方部にとって、この構造はとりわけ重い。インバウンド需要は都市部と特定リゾート地に集中しやすい。成長の増分がインバウンドに偏るほど、その恩恵が届かない地域との格差は広がる。国内需要は「減っていないから大丈夫」ではなく、市場全体の成長速度から取り残されつつあるという認識が要る。


第3章 札幌が映す「量から額」への転換点

北海道主要都市:客数伸び率と消費額伸び率の比較
主要都市の入込客数伸び率と札幌の消費額伸び率(2024年度)
札幌は客数+4.9%に対し消費額+41.1%——成長の質が異なる
※消費額伸び率は札幌市のみ公表データあり。他都市は入込客数の前年度比。
出典:札幌市経済観光局「2024年度札幌の観光動向に関する調査結果について」(2025年)、
函館市・釧路市・小樽市 各観光入込客数調査(2025年公表)

主要都市の2024年度の観光入込客数を並べると、興味深い非対称が浮かぶ。

函館市の来函観光入込客数は約602万人で前年度比13.9%増。釧路市は約456万人で同9.0%増。小樽市は約807万人で同6.0%増。これに対し、札幌市の来札観光客数は約1,525万7千人で前年度比4.9%増にとどまった(出典:函館市観光部「令和6年度来函観光入込客数推計」、2025年/釧路市産業振興部「令和6年度釧路市観光入込客数調査の結果(概要)」、2025年/小樽市産業港湾部「令和6年度 小樽市観光入込客数の概要」、2025年/札幌市経済観光局「2024年度札幌の観光動向に関する調査結果について」、2025年)。

しかし、視点を消費額に移すと構図は逆転する。札幌の2024年度の総観光消費額は約6,941億円。前年度の約4,921億円から約2,020億円の増加で、前年度比41.1%増、過去最高を更新した(出典:同前)。

客数4.9%増に対して、消費額41.1%増。このギャップが語っているのは、札幌の成長が「人数増」ではなく「消費増」によって起きているという事実。その背景には、外国人宿泊者数が約217万9千人(前年度比35.2%増)に達し、消費単価の高いインバウンド需要が札幌に集中していることがある。

この差は、各拠点の成長段階の違いとして読むべきだろう。札幌は道内最大の交通・宿泊・商業集積地であり、需要回復の初期段階で先に人を集めた。いま札幌は客数の拡大局面を抜け、消費拡大局面に入りつつある。一方、函館・釧路・小樽は客数回復の反発がまだ出やすい段階にある。

つまり、北海道の主要観光地は一律に同じフェーズにない。札幌は「量から質へ」の局面に先行し、他の拠点は「量の回復」がなお成長余地として残る。 各拠点に同じKPIを当てはめることの危うさが、ここに表れている。


第4章 満足はされている——問題はその先にある

北海道観光:旅行者タイプ別 1人当たり消費額
旅行者タイプ別 1人当たり道内消費額(北海道・2024年度)
外国人166,556円 vs 道内客日帰り6,308円——消費構造の二極化
※全国平均は「じゃらん観光国内宿泊旅行調査2024」の2023年度実績値。調査主体が異なるため厳密な同列比較には留保を要する。
出典:北海道観光機構「令和6年度北海道来訪者満足度・観光産業経済効果調査」確定版(2025年)、
じゃらんリサーチセンター「じゃらん観光国内宿泊旅行調査2024【旅行市場動向編】」(2024年)

旅行者は北海道を高く評価している。北海道観光機構の満足度調査では、国内観光客の総合満足割合は道内客80.3%、道外客88.0%(出典:北海道観光機構「令和6年度北海道来訪者満足度・観光産業経済効果調査」2025年確定版)。いずれも高い水準を維持している。

道外客の1人当たり道内消費額は86,444円(出典:同前。令和6年度実績。前年度の80,980円から6.7%増)。一方、道内客は日帰り6,308円、宿泊34,181円と水準が大きく異なる。北海道旅行の消費構造は、道外客とインバウンドが単価を牽引し、道内客が量的基盤を支えるという分業が鮮明だ。

全国平均との比較で、北海道の特性はさらに浮き彫りになる。じゃらんリサーチセンターの全国調査によれば、2023年度の国内宿泊旅行1回当たり費用は60,600円(出典:じゃらんリサーチセンター「じゃらん観光国内宿泊旅行調査2024【旅行市場動向編】」、2024年)。調査主体が異なるため厳密な同列比較には留保が要るが、北海道旅行が全国平均より高い支出を伴う旅行先であることは十分に読み取れる。

旅行形態にも特徴がある。北海道への宿泊旅行で「一人旅」は19.8%を占め、全国平均の15.9%を上回る(出典:じゃらんリサーチセンター「じゃらん観光国内宿泊旅行調査2024」、2024年※)。北海道は、団体やパッケージよりも個人の意思決定で選ばれやすい旅行先である。

※全国平均15.9%は同調査の旅行市場動向編と時系列の整合性を確認済み。北海道19.8%は同調査の都道府県別データに基づく。

ここで問うべきは、この高い評価と高い支出が、地域経済にどこまで転換されているか。

一人旅比率が高いということは、現地で柔軟に行動を選べる旅行者が多いということ。裏を返せば、移動導線・予約導線・情報導線が整っていなければ、消費機会を取りこぼしやすい。食と景観への満足が高くても、それが体験予約、夜間消費、周辺地域への回遊に結びつかなければ、評価は高くても地域への経済還元は最大化されない。

北海道観光の伸びしろは、「認知」や「魅力」の問題ではない。満足から消費への転換率にある。


第5章 現場が今日から変えるべきこと

ここまでの分析を、実務者が動ける粒度に落とし込む。

KPIの再設計——「何人来たか」から「何が残ったか」へ

入込客数も宿泊者数も伸びている。しかし、その伸びの内訳——国内とインバウンドの構成比、宿泊単価、地域内への経済波及——を見なければ、「好調」の実態は掴めない。

中核KPIとして、(1)旅行消費額と客単価の推移(客数に代わる市場規模指標)、(2)宿泊率と平均泊数(滞在の深さの指標)、(3)地場産品の域内調達率(消費が地域経済に乗っているかの指標)。

補強KPIとして、(4)月別来訪者数の変動係数(繁閑差の定量化。北海道の季節波動は事業者経営と人材確保に直結する)、(5)観光関連雇用の通年化率(季節雇用比率の改善を追う指標)、(6)国内客・外国人客それぞれの構成比と伸び率(成長の内訳を可視化する指標)。

拠点ごとの投資配分——均等ではなく機能で分ける

札幌では、客数をさらに伸ばすことよりも、高単価消費・夜間消費・MICE需要の取り込みに投資する。消費額41.1%増という実績が、この方向性の妥当性を裏づけている。

函館・釧路・旭川のような広域拠点では、なお客数回復そのものが成長余地。アクセス改善、宿泊転換、周辺地域への送客ハブとしての整備に投資効果が高い。

小樽のような近接都市では、日帰り需要を宿泊・夜間消費へ転換する設計が焦点になる。

インバウンド成長の「偏り」をどう配分するか

外国人宿泊の増加分318万人泊のうち、相当部分が札幌・ニセコなど特定エリアに集中していると考えられる。この成長の果実を道内全域に波及させるには、ゲートウェイ都市から周辺地域への送客導線の設計が不可欠。二次交通の整備、広域周遊パスの商品設計、多言語対応の拡充を、札幌起点で面的に展開する発想が要る。

「満足→消費」の導線設計

食・自然・地域産品・アクティビティを分断して提供するのではなく、予約・移動・体験・購買を一体で設計する。特に一人旅比率の高い北海道では、当日予約、二次交通、回遊しやすい商品パッケージの改善が、そのまま追加消費の拡大につながる。


観光の現場が次に議論すべき問い

自地域の宿泊者数の伸びは、国内客とインバウンドのどちらが牽引しているか。その比率は1年前と比べてどう変わったか。

「全体が伸びている」ことと「自地域にとって望ましい成長をしている」ことは同じではない。成長の中身を分解できているか。

「満足度が高い」ことと「地域に経済効果が残っている」ことは、別の問い。満足を消費に変える導線は、誰がどう設計するのか。


〈本レポートの参考資料〉

  1. 観光庁「宿泊旅行統計調査」令和5年・年間値/令和6年・年間値確定値

  2. 北海道経済部観光局「北海道観光入込客数調査報告書」令和5年度/令和6年度

  3. 北海道観光機構「令和6年度北海道来訪者満足度・観光産業経済効果調査事業 報告書【概要版】」確定版(2025年)

  4. 北海道観光機構「令和5年度道内観光産業による経済波及効果」暫定値(2024年)

  5. じゃらんリサーチセンター「じゃらん観光国内宿泊旅行調査2024【旅行市場動向編】」

  6. じゃらんリサーチセンター「じゃらん観光国内宿泊旅行調査2024」都道府県別データ

  7. 札幌市経済観光局「2024年度札幌の観光動向に関する調査結果について」

  8. 函館市観光部「令和6年度来函観光入込客数推計」

  9. 釧路市産業振興部「令和6年度釧路市観光入込客数調査の結果(概要)」

  10. 小樽市産業港湾部「令和6年度 小樽市観光入込客数の概要」

*留意点

延べ宿泊者数(観光庁)と観光入込客数(北海道経済部)は調査主体・定義・集計方法が異なる。延べ宿泊者数は同一旅行者の複泊を含む「延べ」指標、入込客数は実人数ベース。両者を直接比較する際にはこの違いに留意が要る。また、北海道観光機構の観光消費額・経済波及効果はR5が暫定値、R6が確定値であり、年度間比較の際には推計手法の変更に注意を要する。満足度調査の消費額については、道内客・道外客・外国人客で水準が大きく異なるため、合成平均値の解釈には注意が要る。すべての金額は名目値であり、物価上昇を考慮した実質ベースでは伸びは数字より小さくなる。